改元による感情の動きが与える経済効果

早川　愛

①はじめに

2019年には、31年間続いた平成が終わりを迎え、令和が始まりました。

令和改元時には、異例の生前退位にて改元が行われたため、多くの日本人が関心を持ったはずです。

そもそも、改元は日本人にとって、重要なことであり日本全体の感情が大きく動かされる出来事です。

感情が大きく動く時、経済も動きます。

今回この記事では、気分や情動などの感情が経済行動に及ぼす影響について、「平成」になる時の感情の動きと「令和」になる時の感情の動きを比較し、述べていきます。

①「昭和」から「平成」と「平成」から「令和」、2つの改元の瞬間の感情の動きを比較する。

○「昭和」から「平成」

日本全体を覆う自粛ムードは、昭和天皇の容態悪化が伝えられた1988年9月19日から始まりました。1月7日に昭和天皇が崩御されると自粛ムードは一気に加速し、その雰囲気は2月24日の大喪の礼まで続くこととなります。
自粛ムードは約5ヶ月にもわたり、日本全体が暗い雰囲気に覆われました。

【感情】全体的にマイナス

ex)切なさ、無力感

【自粛の例】

バラエティ番組の楽しげな演出の自粛
全国各地で秋祭りの中止・崩御当日と翌日はCMが放映されず
「寿」「賀正」「おめでとう」のない年賀状
クリスマスケーキの生産量が減少
神奈川県横浜市では、秋分の日に予定されていた横浜駅西口の名物行事「ヨコハマカーニバル」が中止
千葉県東京ディズニーランドでパレードの後の花火打ち上げが中止。また、ミッキーマウス生誕六十周年を祝うイベント「ミッキー・カー・オブ・ザ・イアー」が延期
千葉県印西町で開催予定だった「第一回コスモスサミット」が無期延期
長野県で行われる予定だった全国俳句大会（参加者約200人）が中止
福島県の会津秋まつりで、約7000人の小中学生が市内を練り歩く「提灯行列」と、3日間続けられる予定だった盆踊り大会が中止
静岡県静岡市登呂遺跡で行われる予定だった「第27回登呂祭り」が中止。例年、市民約10万人が参加していた
三重県伊勢市の「伊勢おおまつり」と「伊勢神宮奉納花火大会」が中止
佐賀県の県民体育大会開会式で、太鼓演奏やファンファーレなどが取りやめ
長崎県長崎市の諏訪神社で行われる予定だった秋の大祭「長崎くんち」の奉納踊りが中止
プロ野球では、セ・パ両優勝チームのパレードが中止。なおパ・リーグは西武ライオンズが1位に輝いたが、恒例の西武デパート「優勝感謝セール」は行われなかった

○ 「平成」から「令和」

平成になる時とは異なり、「生前退位」だった為、日本全体は祝賀ムードに。

＊生前退位とは？＊
王位や皇位などについて、存命中に地位を退くことを指す言い方。
weblio国語辞典より

改元割、改元セール、改元グッズの販売と言ったように、改元に因んだ盛り上がりが目に見えて分かります。

○祝賀ムードだったからこそ、テレビでの報道が増え国民が関心を持つ。SNSでは次の元号を予想して盛り上がった。

【感情】全体的にプラス

ex)懐古、興奮、高揚感、喜び

〇このように、「昭和」から「平成」の改元時と「平成」から「令和」の改元時ではほぼ真逆と言っていいほど、感情の動きに差がありました。では、マイナスの時とプラスの時、感情の動きは経済的にどのように関わりがあるのでしょうか。

②感情の動きにより引き起こされる経済効果はあったか。

○「昭和」から「平成」

【経済効果】

・「平成」になった時にはテレビ番組が自粛されていた為レンタルビデオ店の売り上げが通常の3〜5倍
・自粛開けの百貨店の売り上げ増加

百貨店販売額(前年同月比)の推移

【出典】https://www.google.co.jp/amp/s/media.rakuten-sec.net/articles/amp/20628

このグラフを見ると、平成元年1月の百貨店の売り上げは自粛ムードだからと言って、あまり変化はないようです。

・昭和天皇陛下崩御で株式市場は急騰昭和天皇崩御は1989年1月7日土曜日の早朝。
翌営業日の1月9日月曜日の日経平均は、天皇陛下崩御の自粛明けの後の経済波及効果を期待して、469円高の30678円と急騰。さらに翌10日も328円高、11日137円高、12日変わらず、13日155円高と1週間の上げ幅は1088円高、率にして、3.6%もあげました。

○「平成」から「令和」

【経済効果】

・祝賀ムードだったため、「昭和から平成」とうって変わり、観光業が盛り上がる。
・観光業

ＪＴＢ総合研究所　『2019年の旅行動向見通し』2018年12月20日

【出典】https://diamond.jp/articles/-/198398?display=b

・2019年は旅行総消費額が前年比＋2.8％の15.3兆円と予想されていた。
ゴールデンウィークなど2019年限りの祝日があるほか、大型スポーツイベントの「ラグビーワールドカップ2019日本大会」が開催されるため。

皇居に訪れる外国人の増加も考えられる。

・4月に当時の天皇皇后両陛下が、上位の報告のために伊勢神宮を参拝したことで、伊勢神宮周辺の旅行の売り上げが2.1倍に増加。

・改元に合わせた結婚が増えたため、婚姻届が4割増加。

【共通の経済効果】

印刷業界への特需

改元に伴う書類の差し替えによる特需から印刷業界には恩恵が期待される。

生前退位が決定したタイミングには、印刷関連の銘柄の株価が上昇している。

例

・野崎印刷紙業

^{包装資材や紙器・紙工品の大手。プリンタ、タグ・ラベルなども手掛ける。改元による印刷物差し替え需要期待。無人レジ関連銘柄（ICタグ）としても注目。}

・カワセコンピュータサプライ

^{業印刷のほか、請求書等の印字などの情報処理、さらには発送作業の受託までを手掛け、金融関連の取引に強みを持つ。改元を控えて受注がしているが、改元後の特需も期待される。}

【出典】https://bigtrade.jp/asset-management/new-era-name-brand-name/

〇自粛ムードの時は、各地でイベントが中止された為観光業が低迷し、祝賀ムードの時は観光業による売り上げが増加しました。

日本全体のムードが明るい時は自分自身も楽しい気持ちになるからこそ楽しいことを積極的に行いたくなり旅行などに行きたくなったり、買い物をしたくなったりといったプラスの感情が増加するからなのではないでしょうか。

逆に、自粛が明けた後の百貨店売り上げが増加したグラフを見ると、自粛ムードの間我慢していた気持ちが爆発し、購買意欲を上げる結果になったのではないでしょうか。

↓

つまり、感情の起伏はなんらかの消費を促しているといえます。

改元だけでなく、日本全体の感情が動くのはどのようなときでしょうか。

③感情と経済行動の関係性

感情経済 ≒ 行動経済学

＊行動経済学とは？＊
行動経済学とは、人間が必ずしも合理的には行動しないことに着目し、従来の経済学では示せなかった社会現象や経済行動を、人間行動を観察することによって説明しようとする新たな経済学。
人が判断して行動を起こす際の直感と感情を重視し、さらにそのメカニズムを明らかにする学問のこと。

・改元時の経済効果をもたらしたのは国民の個人的な感情の動きよりも、日本全体の感情の動きが原因のように感じました。そこで、「集団の感情の動きが経済を動かしているのではないか？」という疑問が生まれます。

改元時以外にも集団的な感情の動きがみられる事例をいくつか見ていきましょう。

集団的な感情の動きの例として挙げられるものはなんだろうか？

・オリンピック

→国民全体が関心をもち、盛り上がる

前回開催された東京オリンピックの時はどうだったでしょうか。

日本で初めてオリンピックが開催されたのは、昭和39年のことです。このとき、大会閉会後の昭和39年後半～昭和40年にかけて、「昭和40年不況」と呼ばれる経済危機が訪れます。

オリンピック閉幕と金融引き締めは日本に布教をもたらしました。

“金融引き締め”とは、今、日本で執られている「金融緩和」の逆の政策で、この不況は「証券不況」とも呼ばれており、企業倒産の多発、企業収益率の低下、株価の不振とともに、大手証券会社が軒並み赤字となりました。

しかし、昭和39年のオリンピック前の日本は、高度経済成長期真っただ中の時期であり、とくにオリンピック前の昭和37年～大会開催までは「オリンピック景気」と言われ、新幹線や首都高などのインフラ整備、各競技施設の建築、テレビの普及などによってさらに景気が上向いていました。

https://www.google.co.jp/amp/s/agent.iitan.jp/article/news/olympic-recession/amp/

・ラグビーワールドカップ

→11月2日に閉幕したラグビーワールドカップ2019日本大会は、南アフリカの3年ぶり3度目の優勝で幕を閉じ、史上初の決勝トーナメント進出を果たしたラグビーワールドカップでの日本代表の活躍は、日本に感動と勇気を与えてくれた明るい話題になりました。

・経済効果はあったか

①ラグビーワールドカップ2019では、10月13日のスコットランド戦で勝利し決勝トーナメント進出を決めた週明け10月15日の日経平均株価は前日比408円34銭の大幅高となり、日経平均株価は大会が始まった9月20日終値で22,079円09銭でしたが、大会終了後初の取引日の寄付きは23,118円79銭で、1,039円70銭上昇しました。
日本大会組織委員会が公表した経済効果は直接効果、間接効果をあわせて4,372億円にも昇りました。

②大会終了後、発表された観客動員数は170万4,443人、チケット販売率は99.3％で過去最高でした。

当初のチケット販売予想が約130万枚だったことからみて、経済効果は4,372億円を上回った可能性が大きいとみられます。

観光庁によると18年の訪日外国人1人当たり旅行支出金額は英国が22.1万円と全体の平均15.3万円を上回りましたが、英国などからの観戦客が多かったラグビーワールドカップ2019でもインバウンド消費がかなり出たものと思われます。

実際、9月の英国からの訪日外客数は前年同月比＋84.4％増加と大きく伸びて、韓国の同▲58.1％の減少を補って全体の伸び率も同＋8.2％と8月の減少から増加に転じています。読売新聞が観戦に訪れた訪日外国人100人に聞いたアンケート調査によると、大会は44日間行われたが、滞在期間の最長は57日間、平均は約18日間だったという。大半は試合だけでなく、各地の観光なども楽しんだようです。