2018年は平成最後のムーブメントに繋がるエモい年?

加藤未来

はじめに

 2018年は、2019年5月1日に元号が変わる前の年で、丸々1年間「平成」の元号が使われる最後の年でした。特に2018年から「平成最後の」というキーワードを多く耳にしたり、「エモい」という言葉が流行しました。若者の流行を中心に2018年を振り返っていきたいと思います。

現代のニュースピーク? 多様化した「エモい」

 Wikipediaによると、“エモとは英語のemotional由来とした、「感情が動かされた状態」「感情が高まって強く訴えかける心の動き」などを意味する日本のスラング(俗語)および若者言葉である。”と解説がありました。語源の由来は、音楽ジャンルのイーモウから来ているという説や、日本語の「えもいわれぬ」から派生したという説があるそうです。

 下の画像は、私がSNSでどんな感情の時に「エモい」という言葉を使うかを記入形式で大学内の人たちから募った回答を抜粋したものです。個性的なものもいくつかありますが、哀愁や懐かしさを感じた時に使う、と回答する人が多く見られました。

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 「エモい」が流行り出した当初は、哀愁や感情が強く動かされた時に用いられる言葉だったのが、近年では多様化して、「ヤバい」と同じくらい様々な意味を持つような言葉として使われることが多くなっているようです。

 これは2020年10月13日TBS放送の「マツコの知らない世界」で特集された #ハッシュタグの世界です。この特集の中で「エモい」という単語が多く使われ、かつ従来の意味以外での使用もあったので取り上げてみました。番組の内容は、ハッシュタグの応用的な利用方法をマツコが若者から習うというものでした。はじめは1枚目のように、昔ながらの喫茶店がある=エモい喫茶店と従来の若者言葉の意味でエモいという単語が使われていました。2枚目からは、エモくて音の響きが気持ちいいハッシュタグがバズる(=流行る)と取り上げられ、イヌやネコをイッヌ、ネッコと呼ぶ事で可愛く「エモく」表現できる、と放送されました。イヌやネコを見た時に人々は、哀愁の気持ちではなく、可愛い!や愛らしい!という強い感情が動くと思うのである意味エモいのです。が、イッヌやネッコと呼び方を変えるとさらにエモいのか?については、この言葉の新しい意味や定義がついてきているのではないかと考えられます。

 この番組以外でも、小学館から発行されている雑誌「cancam」では近年特集されているタイトルが、「エモい夏」や「エモ顔メイク」「エモフェミニン」などエモいというワードが入ることが多くなりました。

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 エモいという言葉は多様化しましたが、結局根底にあるのは自分がどう感じたかを伝える大まかなニュアンスとして「エモい」という言葉が頻繁に使われるようになったのではないか、と現代の若者の表現について書かれている山梨銀行の記事が一理あるのではないかと思いました。

人類はどう感動したかをさまざまな形容詞で他人に伝えようとしてきましたが、その試みにはことごとく失敗。そのわけは「美しい」「郷愁的」などの形容詞が結局のところよそ行きの、他人行儀の意味しか持っていなかったからではないでしょうか。「美しい」と発することは、車や本を見て車、本と言うことと同じことかもしれません。しかし若者は、最後に「い」を置くことで主体的なニュアンスを強め、形容に意志を持たせました。「自分の心が揺さぶられた」という事象表明に特化し、より差し迫った感情表現へ。それが可能だったのは、短歌や俳句など、たった一文字に意味を持たせることが得意な日本語だからこそでしょうか。

(山梨銀行の記事より)

エモさがブームに繋がった年

 ここからは、2018年に流行ったものや再ブレイクしたものを取り上げていきたいと思います。この年にヒットしたものにも「エモい」というキーワードが関わってくるかもしれません…!

DA PUMP「U.S.A.」 https://youtu.be/sr–GVIoluU
 この曲は、2018年6月6日にリリースされたDA PUMPのシングルで、発売前から「ダサかっこいい」ジャケット写真やMVが話題になりました。YouTubeに公開されたMVは、再生数が3日間で50万回を突破、10月には1億回再生を突破しました。メロディーも覚えやすく、サビの片足で跳ねながら親指を立てて腕を振る動きは「いいねダンス」と呼ばれ、これらが相まって日本中で「U.S.A.」はヒットしました。2018年に流行した「TikTok」でもサビのダンスがDA PUMP本人の投稿をはじめ多くの有名人がダンス動画をアップしさらに話題になりました。これらの反響を受け、DA PUMPはたくさんの音楽番組にも出演し、2018 年間 USEN HIT J-POPランキング1位にも輝きました。

 「U.S.A」をリリースした背景には荻野目洋子による1985年のヒット曲「ダンシング・ヒーロー」の再ブームがありました。「ダンシング・ヒーロー」は2017年から2018年にかけてバブリーダンスで再び注目を集め、2度目のブームが起きました。荻野目洋子と同じ事務所のDA PUMPは、ユーロビートとダンスの相性のよさから、ジョー・イエローの『U.S.A.』のカバーを決定したそうです。荻野目洋子やDA PUMPを知る世代からは80年代半ばの懐かしさが、若者からは自分達は知らないけど80年代の雰囲気が感じられてどこか親しみやすい音楽性などがエモさとして突き刺さりヒットしたのではないかと思います。

2018年ツイート数1位は「TikTok」

 この順位表は、2018年1月1日〜2018年11月20日に日本語を対象言語とした、Twitter全量データ対象のツイート数ランキングです。

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 1位の「TikTok」は、2位を100万投稿以上離して2018年で最もTwitter上で使われた言葉になりました。TikTokは中国のByteDance社が開発運営しているショートムービーのプラットフォームで、2018年に世界中で5億人のアクティブユーザーを達成しました。日本では、2018年App Storeの無料アプリ部門でTikTokがダウンロード数1位になり、TikTokで投稿した動画をシェアする場としてTwitterが使われることが多いためツイート数1位になったのではないかと考えられます。TikTokは音楽に合わせてダンスやリップシンクする投稿が主流とされ、かつ動画の秒数が少ないという理由で投稿のハードルが下がり、若者の間で流行しました。TikTokで使用される楽曲は、最新の流行曲だけではありません。倖田來未が2010年にカバーした「め組のひと」は原曲が1983年の発表にも関わらず、TikTokで人気の投稿曲になり再ブームがおきました。このような曲は、#懐メロや#エモい曲とハッシュタグがつけられ、世代が違う若者にも親しまれています。

第3次タピオカブーム

 SNS映えする店内や容器、メニューなど今も様々な工夫によって若者から根強い人気を持つタピオカですが、日本のタピオカブームは2018年が初めてではなく、なんと3度目だったのです。IT mediaビジネスONLiNEの記事によると、タピオカが初めてブームになったのは1992年頃で、エスニックブームのあおりを受け、ココナッツミルクとともに日本でブームになりました。第2次タピオカブームは諸説あるようです。第3次タピオカブームは、台湾ブームが牽引しています。これに加えてLCCが就航したことで若者が気軽に台湾に行けるようになり、台湾フードのブームも起こりました。これらがきっかけで、台湾のタピオカ店が数多く日本に上陸するようになりました。下のランキングは、エイビーロードの「海外旅行調査2019」の内容です。このランキングによると、台湾は渡航先ランキングが5年連続1位でした。

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 また、タピオカ屋がSNS映えするような店内や容器にこだわった一因には、若者のSNS投稿があると考えます。SNSのハッシュタグや用語で#タピ活や「タピる」という新しい言葉が生まれました。これらの言葉とともに自分が飲んだタピオカの店内や容器を写した写真を投稿するのが若者を中心に流行しました。投稿を見た友達やハッシュタグ検索でタピオカ屋を目にした若者が新規の顧客として店に来てくれる、という広告の効果もあるので、タピオカ屋は以前のブーム時よりも店内や容器の見た目にこだわるお店が多くなりました。

 下のグラフは、東京商工リサーチが調査したタピオカ屋の企業数です。2018年の第3次タピオカブームから2020年の夏の間にタピオカ事業を営む企業数は、ブームが起こる前に比べるとおよそ6倍に増えました。現在は、コロナの影響もありタピオカ市場の拡大は緩やかになっています。

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安室奈美恵 

 2018年11月1日月刊情報誌「日経トレンディ」が「2018年ヒット商品ベスト30」を発表しました。このランキングは、17年10月から18年9月までに発表された商品やサービスを、「売れ行き」「新規性」「影響力」の3項目で総合的に判定。それぞれのヒットの度合いを評価し、1位から30位までのランキングに集計したものです。

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 安室奈美恵は沖縄出身のアーティストです。自身の40歳の誕生日を迎えた2017年9月20日公式サイトで、2018年9月16日をもって芸能界引退を発表しました。

安室さんは昨年9月の引退発表以降、国内とアジアを回ったファイナルツアーで国内ソロアーティスト史上最多となる約80万人を動員したほか、ツアーの熱気を収録したライブDVD&ブルーレイが音楽映像作品では史上初のミリオンヒットを記録。化粧品会社や服飾ブランドとのコラボ商品、日本トランスオーシャン航空の特別デザイン機「AMURO JET」就航なども話題となった。

(沖縄タイムスプラス)

 かつて「アムラー」と呼ばれるミニスカートに厚底ブーツ、ロングヘアを特徴とした安室奈美恵のファッションやヘアメイクを真似るのが、1995年から1996年にかけて女性の間で流行しました。安室奈美恵の影響力は2018年も健在で、引退に伴う経済効果は1000億円を超えるとも言われました。この経済効果は、自身のコンサートのチケットやグッズ、映像作品だけではありません。コーセーと安室奈美恵がコラボレーションし、数量限定で発売したアイシャドウパレットは、安室奈美恵自身がカラーをセレクトしたこともあり、かつてのアムラー達やヴィセを愛用している若い世代を中心に多くの反響があり、発売開始から短期間で売り切れする店舗が続出しました。

おわりに 

 カルチャーを中心に2018年を振り返りましたが、この年に流行したものはどこか懐かしさや哀愁を感じられるようなものが、感情経済で対象とした年の中でいちばん多いのではないかと感じました。私は、平成最後に向けてのムーブメントとして、人々は平成を振り返りつつ2018年現在進行形の中にあるエモさを無意識に探していたのではないかと考えます。

 2020年現在も「エモい」カルチャーの流行はあるので、いつか平成と令和でエモさの違いや何が流行したのか、などを比較するのが楽しみです。

<参考文献>

Wikipedia エモい https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%A2%E3%81%84

山梨銀行 ふじのーと 「エモい」の意味は?どう使う?〜心の素敵な揺れを3文字で射止めた言葉  https://www.yamanashibank.co.jp/fuji_note/culture/emoi_imi.html

Wikipedia U.S.A.(曲)  https://ja.wikipedia.org/wiki/U.S.A._(%E6%9B%B2)#cite_note-35

2018 年間 USEN HIT ランキング発表  https://usen.com/news/release/2018/20181205_282.html

ORICON MUSIC 荻野目洋子、再ブームに感謝 「ダンシング・ヒーロー」は「パワーが生まれる」 https://www.oricon.co.jp/news/2102889/full/

ferret ツイート数で選ぶ、2018年流行語大賞ベスト30 https://ferret-plus.com/11209

TikTokについて https://www.tiktok.com/about?lang=ja-JP

engadget日本版 Appleが選ぶ今年のアプリや曲「Best of 2018」発表。年間ランキングはTikTokが首位に https://japanese.engadget.com/jp-2018-12-06-apple-best-of-2018-tiktok.html

ferret「Tik Tok」なぜ人気?流行した3つの理由とその特徴 https://ferret-plus.com/10720

Real Soundテック 倖田來未「め組のひと」、なぜ女子高生の間で再ブーム? “Tik Tok映え”する懐メロを考察 https://realsound.jp/tech/2018/08/post-232903.html

IT mediaビジネスONLiNE 第3次タピオカブームを振り返るhttps://www.itmedia.co.jp/business/articles/2011/22/news005.html


日経クロストレンド 18年のヒット1位は「安室奈美恵」 平成最後のランキング発表 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00064/00011/?i_cid=nbpnxr_child

沖縄タイムスプラス 2018ヒット商品1位は「安室奈美恵」! 人物選出は宇多田ヒカル以来 経済効果500億円超か https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/338772

日刊ゲンダイデジタル 経済効果は1000億円超 安室奈美恵セルフプロデュース戦略 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/236596

FASSION PRESS 安室奈美恵がカラーをセレクト、コーセー「ヴィセ」の限定アイカラーパレットhttps://www.fashion-press.net/news/40683