及川 拓真
<目次> ・ブームから定番へ ・コンビニコーヒーとは ・コーヒー市場は朝にあり ・感情でコーヒーは売れるのか ・朝市場における顧客感情セグメント構想
ブームから定番へ
日経トレンディは「2013年ヒット商品ベスト30」において、パズドラや半沢直樹を抑えて、コンビニコーヒーを首位につけました。
コンビニコーヒーの分野の先駆けはサークルKサンクス。これにローソンやファミリーマートが追随し、最後発のセブン-イレブン・ジャパンは1月から「セブンカフェ」で参戦し、9月には約1万5800店全店への導入を完了した。これにより、業界の勢力図が一気に塗り替わった。セブンカフェは9月末には累計2億杯を達成し、年間販売数は4億5000万杯を見込んでいる。
日経トレンディネット 山下
セブンカフェの2013年の大ヒットを期に、コンビニのコーヒーはまずいというイメージは消え失せ、コンビニでコーヒーを買うという文化が日本に根付き、今やファストフード店のコーヒーですら侮れないレベルにまで、日本のコーヒー偏差値は上がりました。しかし、缶コーヒーと自動販売機がすでに定着していた日本において、コンビニのコーヒーがブームを巻き起こし、それが定番化している要因は、単に安くてうまいからでしょうか?そこには、どのような市場が存在していて、どのような購買感情が絡んでいるのでしょうか?
コンビニコーヒーとは
この記事の指すコンビニコーヒーとは、主にレジでのやり取り、もしくはレジ横のコーヒーマシンの操作によってコーヒーを淹れる形の商品を指します。具体的な商品名としては、セブンカフェ、ファミマカフェ、マチカフェ、などが挙げられ、各種コンビニがコーヒー事業に進出しています。それぞれのブランドで味や販売形態、商品ラインナップなど様々な特徴の違いはありますが、この記事では、2013年にブームを起こし、その後現在に至るまで、業界を牽引し続けているセブンカフェに主な焦点を当てています。
コンビニコーヒーという業界自体が、他のコーヒーを提供する販売形態に対して持つ優位性は、主に「値段が安い」「美味しい」「おしゃれなパッケージ」「コンビニで買える」という点が挙げられます。まず初めの、値段に関しては、セブンカフェのレギュラーコーヒーが一杯100円となっており、基本的にどの商品も100〜200円とリーズナブルな値段で提供されています。これは、大手のカフェチェーンはもちろんのこと、缶コーヒーやペットボトルコーヒーと比較しても安価で手に入れることができます。次に、コーヒーの味に関してですが、セブンイレブンは、富士電機と共同で、いっぱいずつ豆から挽いて淹れることができ、かつコンビニの店舗に置くことのできるコンパクトさのあるコーヒーマシンを開発したことで、香りも味も本格的なコーヒーをいっぱいずつ淹れることができます。また、豆にもこだわりを見せており、特に2020年10月に販売が開始された「グアテマラブレンド」(120円)では、最高級グレード豆の中でも特に高品質な、最高標高が2000mに達するエリアで取れた豆のみを使用しているようです。コンビニコーヒーのパッケージは各社個性的なデザインを用意しています。基本的にホットの商品は紙コップに蓋をつける形が一般的です。これらのデザインは他のコーヒー商品に比べてもデザイン性に優れているかと言われれば必ずしもそんなことはありません。しかし、大手コーヒーチェーンを彷彿とさせるそのデザインは街中で持ち歩いていても違和感のない、おしゃれなデザインと言えます。最後に、「コンビニで買える」という点について、コンビニコーヒーなのだから当たり前ではありますが、これは大きな優位性の一つです。現在、セブンイレブンの国内店舗数は、21038店なのに対して、スターバックスコーヒーの国内店舗数は1601店しかありません。もちろん、コンビニとスターバックス以外にもコーヒーを飲む選択肢はありますが、同じクオリティのコーヒーが全国のこれだけの店舗で購入できる例は多くありません。
そして、コンビニコーヒーの最大の魅力は、これらの優位性がいずれも高いレベルで共存しているところにあると言えます。安いのに美味しい、美味しいのにコンビニで買える、コンビニで買えるのにおしゃれ、おしゃれなのに安いと言った具合に、共存する魅力どうしがシナジーを生み、商品価値を高めており、このような現象は、これらの優位性の高いレベルでの共存が必要不可欠であると言えます。
コーヒー市場は朝にあり
では、実際にコンビニコーヒーはどのような人にどのように売れているのでしょうか。私は、コンビニコーヒーをゼミで取り上げ始めてから、意識的にコンビニに足を運びコーヒーマシン周りを観察していましたが、実際にコンビニコーヒーを購入している光景を見ることは非常に少ないことに気がつきます。その理由としては、足を運んだコンビニの場所とその時間にありました。この段階で私が足を運んだコンビニは、いずれもオフィス街ではなく、地元(武蔵小杉〜元住吉)のコンビニであり、住宅街はもちろんのこと、駅前の店舗もコーヒーマシンへの客足は多くありませんでした。また、時間も自分が行きやすい時間に足を運んだために、夕方や昼過ぎなど、コーヒーが最も売れると思われる時間からは外れてしまっていました。
そこで私は、朝が最もコーヒーの売れ行きが良いだろうと見込んで、朝の通勤ラッシュ時間帯の渋谷駅周辺のコンビニやカフェを回って、それらの様子を観察することにしました。
方法
渋谷の街を朝の7時半から9時にかけて、コンビニやカフェを周り、主に顧客層や、コーヒーの売れ行きを中心に観察します。オフィスの多い地区と多くない地区が隣接していることから渋谷に、コンビニコーヒーが最も売れると考えられる時間として、朝の出勤ラッシュの時間を観察の対象とします。
ルート
[7:30]ヒューマントラストシネマ→[7:35]セブンイレブン渋谷一丁目(チェックポイント5分滞在)→[7:40]宮益坂へ出て下る(tohoまで20分)→[8:00]クリスピークリームドーナツ(チェックポイント8分滞在)→[8:23]ローソン渋谷ヒカリエ店(チェックポイント5分滞在)→[8:38]セブンイレブン渋谷東口店(チェックポイント5分滞在)→[9:00]セブンイレブン渋谷3丁目明治通り店
メモ
コンビニ
[セブンイレブン渋谷一丁目]
周りの様子:ちょっと目立たない 大通りから一本 渋谷の中心と比べて、中小のオフィスが主なエリア
客層:ビジネスマン(キモチ女性が多い?) 男性は全員スーツ、女性は私服多め
コーヒーの売れ行き:売れてはいる 他の飲み物と同じくらい
コーヒーの客層:30〜40代スーツ男性、50代前後スーツ男性、20代私服女性、50代スーツ男性
香りや環境:香る 入り口右に自然と目が行くその他:マシンは新型2 旧型1
[ファミリーマート道玄坂店]
滞在中にコーヒーの売り上げなし客は50代スーツ男性のみ
[ローソン渋谷ヒカリエ店]
周りの様子:ヒカリエ中 オフィスゲート目の前
客層:ここのオフィスの人だけ? 男性多め 私服(恐らくビジネスマン)とスーツ半々
コーヒーの売れ行き:売れてない マシンが無い、ペットボトルの方が仕事中飲みやすいからか(オフィスにコーヒーある可能性)
コーヒーの客層:20代白シャツ男性 20〜30代スーツ男性がクラフトボスを購入
香りや環境:香らない マシンなし
その他:朝ごはんはみんな買っていく すでにスタバのカップ持ってる人も
[セブンイレブン渋谷東口店]
周りの様子:渋谷から1番近いコンビニ 渋谷ストリームの真横
客層:人はとても多い ほぼビジネスマン 8割スーツ 少数の女性私服
コーヒーの売れ行き: 売れている マシンの前に並ぶ人が出る
コーヒーの客層:50代スーツ男性 40〜50代スーツ男性 30〜40代仕事着女性(ペットボトルも購入) 50代スーツ男性 20代カジュアルジャケシャツ男性 30代ジャケパン男性
香りや環境: 入店時は気づかなかったがほんのり香っている 新台2 旧台1
[セブンイレブン渋谷3丁目明治通り]
周りの様子:明治通り沿い どこのコンビニも客が入っている
客層:主にビジネスパーソン (学生も?)
コーヒーの売れ行き: 売れている 割合としても高い
コーヒーの客層:50代スーツ男性 20〜30代ビジネス女性 20〜30代ビジネス女性 20代スーツ男性 30代前後ビジネスウーマン 30代前後スーツおしゃれ男性 30代前後私服女性(恐らく仕事) 20代前後私服男性(キャップとパーカー) 20〜30代私服男性(恐らく仕事)
香りや環境: 香る 新型3 旧型1
その他: 明治通り沿いでは客はある程度分散しててどこかだけ混んでたりはしない
カフェ、喫茶店など
[スタバin cocoti]
7:25出口目の前のビルの中全員ビジネスマン&ほぼスーツ遠くから店があることが認知できる(2階にあり)
[クリスピークリームドーナツ](8時open)
周りの様子:tohoシネマズのすぐ近く 出口直結故店の前の人通りは多い
客層:30〜40代トレンチコート女性 20〜30代外国人私服男性(話し言葉は聞き取れないがコミュニケーションに手こずってはなさそう) 20〜30代ジャケパンスタイル男性 40代スーツ男性 40代私服女性
コーヒーの売れ行き: 全員コーヒーを購入 持ち帰りより店内利用の方が多い(外国人男性は大量のドーナツをお持ち帰り)
香りや環境:オープン直後のため匂わず
その他:8時オープンじゃ多少時間に余裕ある人じゃないとよれない?
[上島珈琲店]
他のコーヒーチェーンがあまり人が入らない中、非常に混んでる(席は半分ほど埋まっている)モーニングセットありスーツと私服半々グループ客1組
[cafe de clie]
非常に混んでいるモーニングセットありビジネスマン多数駅から1番近いカフェ
まとめ
調査では、朝のコーヒーの選択肢として、コンビニコーヒーや缶コーヒー、大手カフェチェーンのテイクアウトだけではなく、喫茶店などで時間を過ごすといった選択肢を取る顧客も多くいることがわかりました。また、コンビニ、喫茶店ともにオフィス街や駅の出口付近での利用が多く見受けられ、主な顧客層としては、やはり仕事に向かう人が多いと思われます。
感情でコーヒーは売れるのか
人の購買活動に関わるのは、必ずしも合理的な判断だけではありません。これはヒット商品やブームを巻き起こしたものに関してはより強く言えることであると思われ、2013年から現在に至るまで、コンビニコーヒーが愛され続ける要因にはどのような感情が関わっているのか、コーヒーに関する資料を集めつつ仮説を立てました。
まず一つ目は、「安堵」もしくは「癒し」を求めている感情状態、具体的には、緊張や焦り、苛立ちなどでしょうか。先の調査によって、コンビニコーヒーの主な顧客は仕事に向かうビジネスマンが多いことがわかりました。朝の通勤ラッシュは非常にストレスがかかり、その緊張状態を解くためにコーヒーを買う顧客は少なくないと思われます。この仮説では、この感情に当てはまる顧客が緊張状態にある際に、何らかのきっかけでコーヒーのことを思いだし、購買行動に移ることとなります。そのきっかけとなりうるコンビニコーヒーの特徴は「コンビニで売っている」こと、そして「香り」です。コンビニには、もちろんコーヒー以外の商品も売っています。出勤前に朝食や昼食をコンビニで購入するビジネスマンも多いことでしょう。その際に、入り口に置いてあるコーヒーマシンや広告だけでなく、香りによってコーヒーのことを思い出すといった効果が期待できます。『スーパーのサミットでは4月から、カレーのルーや野菜売り場に設置。カレーの香りを放つようにしたところ、ルーの売り上げが導入前より3割アップ。「夕食のメニューを決めないで来店した顧客がにおいにつられ、ついカレーを選んでしまう」(プロモツール井上賢一社長)ようだ。』(週刊東洋経済 島田)このように、香りによる販促効果は実際の現場にも用いられているようです。理学博士の外崎肇一氏によると、嗅覚は他の感覚器官とは脳への通り道が異なり、「大脳辺縁系」という部位にたどり着くらしいです。大脳辺縁系は記憶や感情をコントロールする場所であり、あるニオイで昔の思い出がよみがえったり、好き嫌いの感情がおこったりすることは、この大脳辺縁系が関係していると考えられています。
二つ目は「羨望」の感情です。これは、自分以外の人が持っている利益(人、もの、人気度やライフスタイルといった無形のものなど)を恨みがましく思うことであり、単純におしゃれなパッケージによって引き起こされる感情です。缶コーヒーが既に市場に浸透していた日本のコーヒー市場において、コンビニコーヒーがブームに終わらず定番商品と化した要因には、これまで、コンビニや自販機で買っていたような価格帯のコーヒーにはない特徴がコンビニコーヒーにはあったからであると考えました。それは単純に味だけではなく、見た目のおしゃれさです。紙コップにプラスチック性の蓋をつけるというスタイルはスターバックスのテイクアウトコーヒーと同様であり、加えてシンプルかつ個性的なデザインは、オフィス街にも馴染むルックスと言えます。「意識高い系」という言葉が出始めたのも、2010年代初期であり、これは日本における、スターバックス、MacBook、クラフトボスなどのヒットにも同様の感情が関係しているのではと推測できます。
最後に取り上げるのは、「短気」の感情です。これは、落ち着きがなく、気が短いこと、また、瞬時の変化、安心、満足感を求めること、とされています。ここで取り上げたいのは主に後半の意味であり、優位性の共存に関わってきます。つまり、缶やペットボトルほど効率的ではないが、カフェに近いコーヒーが味わえ、カフェほどの癒しでないが、時間は取らない、場所も自由、また、スタバほどではないがおしゃれで、代わりに安いと言ったように、あらゆるニーズを、一般的な顧客が許容できるレベルで手に入れやすく実現しているため、多くの顧客を集めたという考えです。
朝市場における顧客感情セグメント構想
時間や余裕がないと思われがちな朝だが、実は様々な選択肢と、それらを選ぶ顧客がいるということがフィールドワークでわかりました。コンビニコーヒー以外の選択肢にも強みがあり、その中でもコンビニコーヒーを選ぶのはどのような感情の持ち主なのでしょうか、「短気」の感情のように、必ずしも極端選択をする訳ではないと思われるため、様々な商品と感情を調べ、図の形で整理するのが良いと考えました。名を「朝市場における顧客感情セグメント」とします。
「朝市場における顧客感情セグメント」
- 朝、商品(コーヒー)を選択をする上での基準(時間や味癒しなど)をx軸y軸にして図を作成
- 図上に具体的な商品を並べる
- 朝、商品を選ぶ際に働くと思われる感情がカバーしているエリアを区切る
- 商品カテゴリーを変える or x軸y軸を変えて並べ替えてみる
ここからは、セグメント(コーヒー部門)の完成をゴールに設定し、調査研究を続けていきたいです。
<参考文献> ・東洋経済オンライン (2014)「セブンカフェ成功の裏にあった「30年戦争」」(https://toyokeizai.net/articles/-/51509) ・東洋経済オンライン (2010)「おいしい香りに思わず衝動買い? 購買欲を刺激する「におい」販促」(https://toyokeizai.net/articles/amp/4488 ) ・NIKKEI STYLE (2010)「嗅覚で購買意欲くすぐる 香る商品や店が増加」(https://style.nikkei.com/article/DGXDZO10741160Z00C10A7W02100/) ・東洋経済オンライン (2013)「セブン、独り勝ちの秘密」(https://toyokeizai.net/articles/-/14644?page=3)