06.プロット

はじめに
トランスメディアを語るために必要なキーワードは「物語」です。
物語については、古くからその実態を解明しようと研究が続けられてきました。
そして、そうした物語を構成する要素として、必要不可欠なものが「プロット」です。
物語を一つの家としたら、プロットはその家の土台のようなものです。
そのように、物語の根底を支えるプロットについて説明していきます。

ー目次ー
◆トランスメディアにおけるプロットとは
◆プロット及び物語の諸研究
◆感情とプロットの関係性
◆まとめ
◆参考文献

トランスメディアにおけるプロットとは


トランスメディアにおけるプロットの説明には、まずはプロットの正体を知る必要があるでしょう。結論から述べれば、プロットは「物語の筋、仕組み」です。

ジャン=ミシェルアダンによれば、物語はストーリーとプロットに分けられることが分かります。
ストーリーとは、時間順に配列された出来事を示したもの、もう一つのプロットとは、始め・中間・終わりがあり、それが因果関係によって繋がったものとなります。
つまり、ストーリーは「それからどうした?>によって浮かび上がらせる」ものであり、他方、プロットは「なぜだ?>によって浮かび上がらせる」ものであると区別することができます。
ストーリーとプロットを区別することで、私たちが接する物語は、プロットが多様に錯綜した形で組み合わさって成り立っているものと理解することができます。

また、物語の作成手順からプロットを考えます。作品のテーマから決めていく場合の、一般的な物語の作成手順が以下の通りです。

①テーマを設定する
② テーマを起承転結に分けてストーリーにする
③ストーリーに仕組みを加えてプロットにする
④プロットをさらに細かくして構成を組む
⑤構成を元にシナリオを完成させる。

①〜⑤の物語の作成手順の中で、プロットを作る段階は、テーマ、ストーリーと構成、シナリオの間にあります。最終段階であるシナリオの最小単位はシーンと呼ばれますが、そうしたいくつかのシーンの集合体をシークエンスと呼びます。そして、シークエンスを繋ぎ合わせた物語の骨組みが、プロットなのです。

そして、いままでの説明を踏まえた図がこちらです。

物語を分解すると、ストーリーとプロットに分かれ、ストーリーが1から8のシーンから成立しているとすると、プロットは1と4と8を結ぶ矢印、つまり、シークエンスを結ぶ因果関係ということがこの図からお分かりいただけると思います。
以上のように、プロットとは、物語の出来事と出来事の因果関係、物語の筋、仕組みなのです。

そして、トランスメディアにおいて、物語がさまざまなメディアを介して語られていく構造の中で、プロットはどう機能するのかについて説明したいと思います。
まず初めに、トランスメディアにおいて、プロットは重要とも言えるし、重要でないとも言えます。「はじめに」で述べた通り、プロットは物語を家とした時の土台と言えるものでありますが、物語の良し悪しを決めるのは、家の外観や内装など、私たちが目にすることのできる部分になりやすいのです。そのためトランスメディアにおいて、小説、映画などで物語が語られる中で、違うプロットを当てはめても、ヒット作として成立する可能性は大いにあります。

グリム童話や日本昔ばなしは、プロットが違っていても意味を成すことを表しています。グリム童話は、初版と完結版を見比べてみると、版を改めるごとに残酷な描写、性的な描写が改筆されているなど、子供と家庭のために手を加えている部分が多く見受けられます。日本昔ばなしに関しても、昔と現代では違う描写が多く見受けられます。このような例は、プロットいじり、プロットの書き換え、もしくはストーリーの書き換えとも言えるかもしれません。しかし、物語の語り方自体は変わっていますが、物語の本質自体は変えられていない場合がほとんどです。この場合、当初の物語とは違った物語を、受け手は愛していることになりますが、それでいいのです。時代につれて物語は形を変えて、存続を果たそうとしているのです。

また、プロットがしっかりしていることで、私たちが物語をどう感じるかという点に、良い影響をもたらす場合があります。そうした点では、プロットは重要であると言えます。物語をどう語るかということに着目したプロットは、物語にしっかりとはまった時に意味を成すのです。
ハリウッドの映画では、物語の構造、既存のプロットを使った作品が多く見受けられます。映画制作会社(特に大きいスタジオ)は、一つ一つの作品において、失敗しない、必ずヒットするような法則を求めます。今までの演劇などのヒット作の法則から着想を得た、物語として確実に面白いと言える映画の構造を使うのです。
このように、プロットは物語をヒットさせる、人々の心を打つものにさせるという重要な要素を担う場合があります。

◇プロット及び物語の諸研究

プロット(物語構造)に関する研究は、物語論の研究として始められました。
まず、そもそも物語とは何か。さまざまな物語を抽象化していくと、物語は次に示すⅠ〜Ⅲにある命題の連鎖によって成り立っていることが分かります。

Ⅰ  t1時に、AはXである。
Ⅱ  t2時に、Aに事件Yが起こる(または、AはYを行う)。
Ⅲ t3時に、AはX’である。

この中では、ⅠあるいはⅢが明示されないこともあります。つまり、物語が存在するためには、登場人物が必要であり、時間が経過して何かが起こることが必要であり、かつ、その登場人物が出来事によって変化することが必要になるのです。従って、物語とは単純に述べれば「ある登場人物の身に時間が経過して何か起こったことで、ある登場人物が変化する」ものであります。

現在につながる物語の研究について、その起源はプロップにあるとされています。 しかし,これがクローズアップされたのは 1950年代、構造主義が台頭し、そこでプロップの著作が取り上げられることで、(構造主義の影響を受けている)記号論の一分野として物語論という研究分野が確立しました。

物語とは先に述べたように、ある出来事・時間経過による登場人物の変化を語ったものであるので、物語論の研究対象は登場人物に関することと、登場人物の行為に関わることが焦点となりました。
そして、物語論の研究内容はジュネットによって物語内容、物語言説、物語行為の3つに分類されます。
物語内容とは、物語の中で何が語られているのかを明らかにするという解釈に関する研究、物語言説とは、物語として成り立つ語り方とはどのようなものかを明らかにする物語の形式を一般化する研究、物語行為とは、物語を語る行為についての研究です。
現在、物語論ではこれらの中で物語言説を中心として、3つの間にある相関関係を扱う研究が主になっています。その中でも、物語論では物語言説を中心に物語構造を解明することが主眼に置かれてきた。

物語については古くから現代まで、多くの学者によって研究が続けられてきました。さらに、物語は色々な角度から研究されており、その構造(プロット)だけではなく、その内容や物語がもたらす影響など様々です。また、プロットに関してだけでも、多様な切り口から分析しているものが数多く存在し、全て網羅するには骨が折れます。そんな中、今回は「感情」に注目した、興味深いプロットの分析を紹介したいと思います。

感情とプロットの関係性


アメリカ・バーモント大学コンピュテーショナル・ストーリー研究所のチームは、興味深い考えを発表しました。

「核となる6つの軌道を発見しました。この軌道こそ複雑な物語の基本要素を形作っています。」

研究チームは、データ採取のために感情分析を行いました。これはソーシャルメディアを分析するマーケッターが用いる統計テクニックで、クラウドデータに基づいて、単語ごとに「感情値」を設定する方法です。小説や詩、脚本で使われている全ての単語についてこの分析を行い、時間経過に沿って描画していきます。すると、文章の流れに沿った感情の変化が表れ、感情的な物語が明らかになります。このチームは、この感情分析を用いて1700以上の物語の感情の弧を描き出し、最も一般的な弧を明らかにしました。彼らによれば、物語は6つに分類できるといいます。それが以下の通りです。

『地下の国のアリス』(ルイス・キャロル)など、立身出世物語に見られる、感情値の「一定して継続的な上昇」型
『ロミオとジュリエット』(ウィリアム・シェイクスピア)など、悲劇に見られる、感情値の「一定して継続的な下降」型
ヴォネガットが説明した穴の中の男の物語のような感情値の「下降から上昇」型
『イカロス』(ギリシャ神話)など、感情値の「上昇から下降」型
『シンデレラ』(グリム童話等)など、感情値の「上昇→下降→上昇」型
『オイディプス』(ギリシャ神話)など、感情値の「下降→上昇→下降」型

以降は1から順に、①立見出世物語②悲劇③苦境脱出型④イカロス型⑤シンデレラ型⑥オイディプス型とします。そして、①〜⑥の感情の弧をどれか単体で使うor複数組み合わせて、物語の構造を作っているとしています。実際にいくつかの物語を、感情で分析してみたいと思います。

「ロミオとジュリエット」ウィリアム・シェイクスピア =イカロス型
シェイクスピア自身の説明によって「ロミオとジュリエット」は悲劇だと考えられていますが、物語の感情を分析すると、実は上昇の後に下降していくイカロス型に近いことが分かります。
何はともあれ、少年は少女と出会い、互いを失う前に恋に落ちなければいけません。ロマンスの頂点はこの芝居の開始4分の1くらいのところにあり、2人は有名なバルコニーのシーンで永遠の愛を誓います。そこから先は下り坂です。ロミオはティボルトを殺して出奔し、ジュリエットをロミオと引き合わせようとしたロレンスの計画は、物語にわずかな偽りの希望を持たせてくれますが、ジュリエットが毒を飲んだ後は、最後の焼け付くような悲劇を止める手立ては何もありません。

「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」 メアリー・シェリー =オイディプス型
シェリーのこの先進的な小説では、ウォルトン船長が姉に宛てた手紙の中で、主人公ビクター・フランケンシュタイン自らが作り出した怪物について語った恐ろしい物語をつづっていきます。途中でビクターが怪物から聞いた話が挟まり、物語は3重の入れ子構造になります。実は、ビクターが語る幸せな半生からぞっとするような最期に至る下り坂のあらすじの中で、怪物の話が束の間の休息をもたらしています。物語の3分の2ほどのところで、怪物はビクターに逃げ道を示します。それは伴侶を作ってほしいというものでしたが、ビクターはこれを拒絶しました。これによって、彼の運命は定まります。怪物はビクターに「おまえの結婚式の夜に行くからな」と脅し文句をかけ、そしてそれは現実のものになります。

「みにくいアヒルの子」ハンス・クリスチャン・アンデルセン =複合型
ハンス・クリスチャン・アンデルセンのこの有名な話は、上記6作品で最も短い物語ですが、同時に最も複雑な構造をしています。全体的な立見出世物語の枠組みの中に、2つの苦境脱出型の弧が含まれています、つまり、物語を通してアヒルの子の状況はどんどん良くなっていきますが、その道中では良いことも悪いことも起きています。アヒルの子はまず生まれるが、その違いからいじめを受けます。その後、ほかのアヒルより泳ぎがうまいことを知り、飛び立つ白鳥の群れに親しみの予感を持つものの、厳しい冬の寒さで死にそうになります。最後には白鳥へと変身しますが、これは初めにほのめかされていることでもあります。もちろん、これがこの物語の焦点です。「農家の庭でアヒルの巣の中に生まれても、白鳥の卵から生まれた以上、鳥の生まれつきには何のかかわりもない」
物語は白鳥だったアヒルの子が「こんな幸せなんか夢にも思わなかった」と叫び、最も幸せなところで大団円を迎えます。

また、研究チームはどの型の弧に人気があるのかも検証しました。すると、最も人気が高いのは、イカロスとオイディプス型の物語と、複数の基本的な構成要素が順次使用された複雑な型の物語だと分かりました。特に、2つの連続的な苦境脱出型の弧を持つ物語と、立見出世物語の弧の後に悲劇が続く物語が一番人気である、とチームは供述しています。

このように、物語は感情の弧によって分析できることがわかりました。「トランスメディアにおけるプロットとは」で、プロットは物語の出来事と出来事の因果関係と述べましたが、この研究結果は、そうした因果関係を感情の流れで説明、分析するという点に面白さがあります。私たちは日常生活において、さまざまな創作の物語に触れますが、そうした物語の根底を支えるプロットは、私たちの感情を所定のコースへと運ぶジェットコースターのようなものなのかもしれません。

まとめ


今回、私はトランスメディア論においてのプロットについて述べてきました。トランスメディアにおいて、物語があらゆるメディアを通して語られる中で、プロットが果たしている役割は、「物語をどう語るか」です。あるテーマを伝えたいという物語において、どういうプロットを選択するか。そこに、製作者達にとっての難しさ、そして面白さがあると私は考えます。

参考文献


http://hokuga.hgu.jp/dspace/bitstream/123456789/1730/1/SHIMOMURA.pdf
https://kakaneba.com/scenario-elements/plot/purotto-kakikata/
SIG-SAI-031-01.pdf
グリム童話から見る 論toyama.repo.nii.ac.jp › …
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44286945
https://www.ibm.com/think/jp-ja/business/story-tech-01/
https://www.technologyreview.jp/s/2859/data-mining-reveals-the-six-basic-emotional-arcs-of-storytelling/

担当者:森下 桃吉

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