08.主導するテーマ・強さ弱さ

はじめに

主導するテーマとは、ムーミンやドラえもんといった様々な作品の中で、物語を展開する上で必要不可欠な基礎・根幹となる軸のことであり物語の中心となって展開されるものです。また、アナザーストーリーの補完的な部分も兼ね備えています。

強さと弱さとは、物語の困難をなす主導テーマを裏付ける事例や要因のことであり、多くの物語では、その強さが受けて側の興味関心や魅力の一つに繋がっています。これも、様々なメディア媒体によって構築されたものが多く存在しています。
弱さは、物語を創造する上で、必要なものです。私たち人間においても、全ての人に弱みを必ず秘めています。しかし、その弱みを強みに転換するかで、物語も強固なものに変化します。そのため、強さと弱さは、物語の内容によって大きく異なっているのです。

そこで今回は、トランスメディア論を分析してきた中で、コーヒーチェーン最大手のStarbucksに注目し、トランスメディアに秘められた根幹の強さと弱さを探っていきます。

ー目次ー
◆受けて側の創造力
◆Starbucksの主導するテーマ
◆テーマの背景にあるトランスメディア・WEBモデル
◆Starbucksの強さ・弱さ
◆まとめ
◆参考文献

◇ 受け手側の創造力

主導するテーマには、それは分かりやすいものから、受け手が物語の背景を想像しながら考察しなければならない巧妙なものまで様々あります。テーマには、物語が完成した時点ですでに出来上がっていると思いがちですが実際は、私たち受け手側の想像やメディアによって構成された上で確立したものが多々あります。

その事例の一つがディズニーランドです。現在のディズニーという名前を確固たるものに確立したものは、創始者ウォルト・ディズニーの夢から始まったと言えます。彼は、映画、テレビ、テーマパークと、ジャンルを超えて創造力を発揮し、世界中の人々に夢と感動の体験を提供し続けてきました。その中でも、1955年にオープンしたディズニーランドで彼は「ディズニーランドは永遠に完成しない。世界に想像力がある限り、成長し続けるだろう」と語り、多くの人々に何度も来てもらい、愛され続けるには、常に新しい夢とアイディアでパークを改良し続けていく必要があることに気づいたのです。そしてその言葉通り、ディズニーランドは50年以上経った現在も、斬新で新しい発想と創造力で成長し続け、世界中の人々を驚かせています。
その背景には、テレビやWEB・SNSメディアを通して、ディズニーに魅力を感じ、意欲を掻き立てられたゲスト(受け手側)が、実際にパークを訪れることで、物語の続きを作り出すことに直結しているのです。
また、ディズニーの他にも様々な主導テーマを世界中に拡散する上で、構築された複線的なテーマをも構築しています。そのため、ディズニーに限らず多くの物語は、主導するテーマを受け手側が構築していると言えるのです。

Starbucksの主導するテーマ

スターバックスを主導するテーマの根幹は、創業から今日に至るまでの歴史過程にあります。それは、「最高のコーヒーをバリスタを通じて顧客に提供することで最高の体験をしてもらう」というミッション・ステートメントに秘められています。
日本で展開するスターバックス・ジャパンでも、< Our Mission and Values >を掲げ、
Our Mission 「 人々の心を豊かで活力あるものにするために―ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから 」Our Values「 私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します 」を企業理念としています。
上記のミッションを語る上で欠かせないものが、スターバックスが独自に提案するサードプレイスです。サードプレイスとは、自宅(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない自分らしさを取り戻せる第3の場所のことです。

これは、スターバックスが提供する4つのキーワードによって形成されています。そこで、その4つを紹介します。
1つ目の「ロマンチックな味わい」は、スターバックスのお店で5分10分過ごすと、コーヒーの味と匂いによって、人々は単調な日常から解放され、遥か遠いロマンチックな別世界へ誘われるものです。

2つ目の「手の届く贅沢」は、一般的なブルーワーカーにとって、ドクターが乗るようなメルセデスには乗れないが、一杯2ドルのカプチーノは、オーダーできる。コーヒーの前では、みな平等であると定義しています。

3つ目の「オアシス」は、スターバックスでは日常の喧騒を離れ、一人きりになり、ささやかな逃避行を楽しむことができる場所を提供しています。

4つ目の「普段着の交流」は、職場とも家庭とも違い、中立的で形式張らない社交の場を担っています。イギリスのパブ、ドイツのビアガーデン、フランスのカフェのような存在をモチーフとしています。

つまり、平等、一人になる、人とつながる。コーヒーを軸に、一人ひとりのニーズに合わせた場が提供できる空間であり、それが顧客にとっての第三の場「サードプレイス」というスターバックスの独自の提供価値に直結しているのです。

テーマの背景にあるトランスメディア・WEBモデル

StarbucksはTwitter、Instagramで数千万規模のフォロワーを抱えています。新商品の告知など、純粋なStarbucksファンに伝えたいことは、様々なメディアがある中でも、SNSだけで実現できてしまう現状があります。しかし、自社アカウントで発信するコンテンツだけでは、情報感度の高い層は満足させられないのではないかという問題意識がありました。そこで、スターバックスがアーリーアダプタ層と継続的にコンタクトを取れるプラットフォームを作れないかと模索していたのです。そこで、考えながら作り出したのが「TOKYOWISE」でした。

TOKYOWISEとは、2014年にスタートしたWEBメディアです。東京という街で本当に必要とされている事象とは何かを探って見つけ出すウェヴマガジンです。パラグラフ、OPENERSが運営するインディペンデントなメディアであり、広告は1社スポンサーが前提であり、そのスポンサーをしてきたのが、スターバックス コーヒー ジャパンでした。
そこで、この課題の解決方法に対する一つのチャレンジとして「ハイエンドな雑誌の広告枠を買う代わりに、媒体のスポンサーをする」というアプローチにチャレンジすることでした。そこには、宣伝媒体をSNSだけでなくWEBマガジンにも広げることで、感度の高い層やオシャレに敏感な人々をメディアを通して取り組む狙いがあったのです。

ネットメディアにおいては、どうしてもPV数(ページビュー)が広告収入に連動しているため、炎上ネタを中心に運用されるケースもあります。しかし、一社提供のWEBマガジンであれば、そうしたPVに左右されすぎないハイエンドな雑誌と同様のメディア運営が可能になるのです。TOKYOWISEの一社スポンサーを行うにあたっても、公式SNSとは違う新しいコミュニティを創造することで、公式SNSを通じたコミュニケーションとは異なるコミュニティへのリーチが可能になり、TOKYOWISEのコンテンツを通じて多くの人々に楽しんでもらう機会も創出できるのではないかと予想ました。
それゆえ、スターバックスがWEBメディアで目指しているのは、1サイトのバーナー広告ではなくオリジナルのメディア提供方法であると考えます。

Starbucksの強さ・弱さに秘められた強さ

Starbucksmの強みは、他のコーヒーチェーン店とは一線を画したストア戦略に隠されています。それは場所や空間を通じた独自の強みと言えるます。その代表的な事例が2020年現在、全国に25店舗を展開するリージョナル ランドマーク ストアです。

「スターバックス リージョナル ランドマーク ストア」は、日本の各地域の象徴となる場所に建築デザインされ、地域の文化を世界に発信する店舗の総称です。訪れる人々がその地域の歴史や伝統工芸、文化、産業の素晴らしさを再発見し、その発見を通じて地域へ絆を感じられるよう、様々なローカルのデザインエレメントを織り込んでいます。下記の写真①は、福岡県の太宰府天満宮表参道店です。この店舗は、建築家の隈研吾氏により「自然素材による伝統と現代の融合」というコンセプトをもとに設計されました。店舗の奥庭には、太宰府天満宮のシンボルでもある梅の木が植えられており、観光資源との調和がモチーフになっています。そのため、リージョナルに特化した調和空間を構築していることが強みとなっているのです。

【 写真①:スターバックス 太宰府天満宮表参道店 】

ここからは、さらなる強みとなるコアなサードプレイスみていきます。
スターバックスのには、上記で記したサードプレイスの概念をさらに追求した店舗が存在しています。
それが、3つの「Starbucks Reserve」です。
初めに、Starbucks RESERVEは、「最高のコーヒー体験を、あなたに。」をテーマに掲げ、より洗練されたコーヒーを楽しみたい方のための特別空間を提供しています。コーヒー豆や抽出方法にこだわりを持血、東京都22店舗をはじめ、日本全国に61店舗を構えています。

次に、Starbucks RESERVE BARは、好みのスターバックス リザーブのコーヒー豆をお選び頂いて作成する、ハンドクラフトのビバレッジや、バリスタとのコーヒーに関する会話を楽しむことができる場所を提供しています。

最後に、Starbucks RESERVE ROASTERYは、尽きることのないコーヒーに対する私たちの愛や情熱・願いなど全て閉じ込めた特別な空間を演出しています。階数ごとにコーヒーを専門としたフロアや紅茶に特化したフロアやカクテルを提供するBARなど、コーヒーだけにとらわれないことが、スターバックスの強みになっているのです。
ニューヨークやローマ・東京(写真②)など世界に6店舗だけというスターバックスの最上級ブランドとして位置付けられています。これらの強みによって、世界的なコーヒーチェーンとして唯一無二の存在を構築していると考えます。

【 写真②:スターバックス・リザーブ・ロースタリー東京 】

スターバックスに限らずその他の物語においても、強さの裏側には必ずしも弱さという概念が生じています。
これまで様々な店舗のあり方を分析してきましたが、スターバックスの弱さには、強さが直接的に関係していたのです。

スターバックスは、2007年以前の10年間で成長と拡大・発展を目指し1000軒弱から一気に13000軒に店舗を増やし、過剰投資による飽和状態となっていました。
実例を挙げると2002年4月6日の熊本PARCO店と熊本New-S店の同日オープンです。熊本市中央区通町筋の道路を挟んで向かい合わせに誕生した2店舗間の距離は60mでした。熊本PARCO店は1階の路面店、熊本New-S店は道路に面しゆとりのある広さと開放感のある2階の店舗でした。
しかし、熊本PARCOの建物が歪な形をしていることや店舗面積が狭く座席数が少なかったことから、2007年に閉店してしまったのです。また、2002年10月、500m先に新店舗(シャワー通り店)がオープンした事も閉店要因の一つであると考えられます。この事例によって、スターバックスは成長の過程で、本来大切にすべきであった価値である体験することの質そのものを大きく低下させていたのです。

その他にも当時は、規模の効率化を図るために、店舗デザインを簡素化したため、居心地の良さなどのサードプレイス感が無くなっていたのです。そのため、成長する上での傲りが発生していたと言えます。
そこで、課題となっていたサードプレイス感を復活させるために、今後確実に需要が見込まれるとされていたWi-Fiの設置に取り組みました。それこそ、弱さを強さに転換するための一歩と言えるでしょう。
スターバックスの代名詞ともいえるフリーWiFiもカフェ業界では先駆けでした。かつて、サードプレイスを仮想空間で実現するという企画がありゲーム事業を検討したことがあったそうです。しかし、最終的にはコーヒーとの関連性がないことから、ゲーム事業には着手せず、プロセスでに上がったネットワーク環境の強化という文脈から、全店舗で無料のWiFi の提供が始まりました。

現在では、InstagramやTwitterなどのSNSやオンライン上のWEBメディアなどのトランスメディアを通じてスターバックスの強みであるビバレッジをシーズンごとに紹介します。また、私たちカスタマーは、店舗のWI-FIを使用してSNSなどの多くのメディアを使って「映え」させているのも弱さを強さに転換させたことで生まれた新たな強さであると考えられます。
パソコンやスマートフォンのオンライン上で友人などに贈れるギフトカード「Starbucks e-Gift」もSNSをはじめとするメディアを通じて、新たなスターバックスのあり方を提供していると言えるでしょう。

まとめ

今回注目したStarbucksのみならず、スヌーピーやドラえもんなど多くの物語がトランスメディアに関与していると把握することができました。
私は、主導するテーマの背景にある物語の根幹を作り続け、継承しているのは、私たち受け手側であったり、SNSやWEBなどの様々なメディアであると感じました。テーマは、物語一つ一つに存在してますが、それはオリジナルなものであり唯一無二なものであると思いました。

さらに、強さと弱さには、それぞれの物語におけるこれまでの歴史や過程などが関係しており、それをどのように構築するかによって強みにもなれば弱みにもなることを把握しました。そのため、強さと弱さは隣り合わせで存在しているということが理解できました。
今後、様々な物語に触れる際には、表面的な部分だけでなくストーリーの背景に隠された本質を探ってきたいと考えます。

◇参考文献

スターバックス(2020)「STARBUCKS RESERVE」
( https://www.starbucks.co.jp/reserve/ )最終閲覧日:2020年12月20日

担当者:井上瑞基

おすすめ記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です